いびきをかく人は隣人、友人の親切な思いやりあふれる言葉に、少しは耳を傾ける時が来たのだ。
同室にいびきの激しい方がおられる時のいら立ちは、だれでも一度は経験されていることだが、私もいびきにはよく悩まされてきた。最初は死んだ父のいびき。父は毎日轟音(ごうおん)のようないびきをかきながら、早朝に48歳の若さで亡くなった。次は、よく利用する夜行列車内でのいびきである。私がいびきをかく人に対しての不愉快な思いから、深い同情と理解を持つに至ったのは、今も時々乗る夜行寝台列車でのいびきとの遭遇が一因している。その後の遭遇は鑑賞へと変化し現在に至っている。
とにかく、どんなに揺れがひどくても、寝台列車でのいびきをかく人の睡眠は早い。
早いと言うより特技のように思えて仕方がなかった。うらやましい。ねたましい。腹が立つ。いびき音、騒音よりも早く私が寝ようと思うと焦燥感でますます眠れなくなる。 |
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真剣に羊の数を数えてたくさんの羊を集めてみても歯が立たない。平等に寝台料金を払っているのにと思うと怒りが込み上げ、血液中のアドレナリン濃度が上昇し、ますます眠れなくなる。
怒りは時に階上のベットをけり上げたくなる衝動に駆られるぐらいになる。
コンコンと少したたくと、いびきは何か心地よい振動が与えられたのかと錯覚し、またもや激しくなる。
途中駅でのガタンという停車音も、轟音はさらにアドレナリン濃度を上昇させる。
やがて下車駅の案内が聞こえ朝になる。完全なる敗北。
しかし、現在では耳鼻咽喉科医になったおかげで轟音も楽しくなり、数少ない轟音の良き理解者と弁護人になってる。 |